人間というものについて
俵万智さんの歌に
抱かれるきっかけズルき我にしてあなたが決めてくださいと言う
というものがある。
男女の愛に全く詳しくないくせに、こわくさい顔して(思い切り富山弁ですね!)言ってみるなら、こんな知的な女可愛くない!ということである。
恋は落ちるものであり、どうすることもできなくなるものであり、理性がぶっ飛ぶものである。
こんな恋の最大表現であるときに、きっかけをあなたが決めてくださいというなんて、私はズルいオンナだわ・・・、などと考えているなんて。
でも、私は知的な女が好きである。
漱石の作品に登場する女性はおおむね知的である。
この時代に、こんなモダンな、当時は変わっているとみなされるであろう女性が登場するなんて、といつも思う。
その代表格は『三四郎』の美禰子。
野々宮さんをして、「普通の女性は、あなたのようにバスケットを自分で持つことをしませんよ。」というようなことまで言われる。
ちょっと自立した、知に勝った女性。
意外にあまり有名人でもなさそうだけれど、『それから』の美千代も知性的な女性である。
主人公代助が、美千代を呼び出し、自分の愛の決意を語ろうとするとき、美千代を呼び出すに当たり、漱石は、美千代をして、
こういう時の急務を介する女であった、と表現している。
漱石大先生は、知に勝った女性がお好きであったものと思われる。
いわゆる伝統的な日本女性をお好きだったわけではないのだろうか?
美しい女性は登場するけれども、どこか男性におんぶにだっこではなくて、自立していて、判断力に長けている人として描かれる。
でも、まあ、理性がぶっ飛ぶのが恋であるなら、この人たちのは何というのだろうか?
だいたい頭で考えすぎているような気がする。
先日から超絶理性もぶっ飛ぶ「別れる決心」のヘジュンとソレの愛について考えている私は、恋というものは、理性がぶっ飛ぶものなのだと思うようになった。
昨日Youtubeで、パク・チャヌク作品について語っている動画を観ていたけれど、「別れる決心」といっているけれど、この二人付き合ってない。だから別れるまで行っていない、原題が「Decision to leave」だから、本当は「離れる決心」であって、タイトルがミスリードした感じがある、と表現されていたけれど、私はそうは思わない。まだ観ぬ先からそのようなことを言っては何だけれども、「別れる決心」だから惹きつけられるのであって、「離れる決心」なら観たくなる人も少なくなるような気がする。
そんな高尚な映画、プラトニックオンリーな映画に誰も引き付けられないような気がする。
でも、この映画、おそらくは超絶心理戦のような様相の愛を見せてくれると思う。
私は付き合っていない恋愛が好きである。
付き合っていないけれど、その二人に実は存在した愛、というものに関心がある。
ただ、最初に書いたように、私も頭で考えてしまうタイプなので、その人の違う面を見ただけで、醒めてしまうことができそうでもある。
正直、どうすることもできないほど情が動いて、理解できなくなるほどの熱情に駆られてみたかった、とさえ思う。
そもそもヒロインとその相手の構えが違う、というコメントもあった。
だいたい、中国人のソレは、韓国に死にに来ている。
諦念で生きている。
一方ヘジュンは、努力を重ね、それが結果に結びついてきたような男性である。生きる気満々。
そんなエネルギーに満ちた男と、あきらめの境地で生きている女。
だからこそそこに生まれる愛には全く違うものが生まれる。
その状況でなければ生まれなかった愛。
それこそが愛なのかもしれないなあと思う。
理性VS愛。
この構図を見事に壊して見せるから面白いのではないか?と思う。
この二人、理性的なような気がする。
ソレだってヘジュンだって、ある意味とんでもなく理性的。
どこか観る前に何だけれど、それにそんなエリートでも何でもないけれど、私はヒロインのソレより、相手のヘジュンにの方が似ている気がする。
ヘレの嫉妬深く、ヘジュンの頭の中をすべて自分で自分で埋め尽くしたい、なんていう気持ちは私にはわからない。
だから、むしろ完全に自分の精神が崩壊した、というヘジュンの言葉とその後の行動に私は自分との類似性を感じる。
頭で恋するタイプかもしれない。
それに比べて、そもそも諦念で生きているソレの、捨て身の愛は、ものすごくエネルギーがあり、一種なんでもありの様相となる。
きっと。
観もしないのに、もうすでに心を奪われているような映画。
コメントによると、情報がうっそうとしていて、でも過剰ではなく、比喩があちこちにあり、パヌ・チャヌク監督の仕掛けをどれだけ発見できるか?という点にも面白さはあるようである。
ヘジュンを実はモテる男、表現した評もあった。
本人は気付いていないけれど、彼はモテる男であり、そして離れられる男だという。
あまりモテるというイメージがなく、親切で生真面目そうな気がする。
さてさて、ヘジュンはどんな男性なのだろう?
それにしても、じっとそれを見つめるまなざし、素敵だなあ。
確かにイケメンではないけれど、それだから、余計にそう思わされるところがある。